好みのタイプ

「好みのタイプねぇ」
 古泉め。やぶからぼうに何を言い出すかと思えば。
 何でそんな事お前に教えなくちゃならんのだ――とムキになるようなことでも無いか。
 変に意識しないでさらっと答えてしまおう。
「そうだなぁ。おしとやかで、清楚で、家庭的な人かな」
 良いお嫁さんタイプの人が良い。うん。間違いない。
「ほほう」
「何で意外そうな顔をする」
「いえ。てっきり貴方の好みは……っと、失礼。何でもありません」
 ニヤニヤしやがって。何なんだ。
 って、あれ?
「……?」
 何でハルヒ、長門、朝比奈さんの視線が俺に集中してるんだろう。
 ハルヒは下唇を噛み締めて、長門は無表情で、朝比奈さんはどこか機嫌が良さそうに。
「今日はお終い! もう帰るっ!」
 ガタガタと帰っていくハルヒ。いやいや、本当になんなんだ。

 こけこっこーとシャミセンが鳴いて朝。翌日のこと。
 爽やかな天気にあー気持が良いな、と登校してみれば、行き成り爽やかはシベリアへ飛び立つ渡り鳥のように遠くに行ってしまった。カムバック! と手を伸ばす俺の顔に糞を落すおまけまでつけて。
「おはようございます。キョンさん」
 正座して地面に三つ指をつき、ゆっくりと頭を下げる――ハルヒ。ハルヒだよな? 
 うん。どこからどう見てもハルヒだ。姿かたちは。
「あ、うん。おはよう」
 何の罰ゲームかドッキリか知らんがワケワカラン。
 旅館の若オカミごっこか何かだろうか。
「どうぞ」
 席につこうとしたら、イスを引いてくれるハルヒ。 
「ど、ども」
 どっきんばっくんしながら席に着く。
 どうしたんだ。悪いもんでも喰ったのか。昨日の部活のときもおかしかったが、今日はおかしいどころの話じゃない。頭を強打したんだろうか。性格だけ別人だ。それともやっぱり冗談の類なんだろうか。
「良いお天気ですね。洗濯物がよく乾きそう」
「……そ、そうだな」
 ふんわりとした微笑に見とれうになって、俺はそっぽを向いた。

「お弁当つくってきたんです。お口に合うと良いんですけれど」
「ネクタイ、曲がってますよ」
「美味しいですか? よかったぁ!」
「シャツの裾が破れてますね。縫いますから、ちょっと貸してください」

 ……結局ハルヒは一日中そんな調子で、俺とクラスメイトの度肝を抜きまくりだった。
 コイズミィ! どうなってんだ、これはっ!
「簡単な話です。涼宮さんは昨日貴方が語った「好みのタイプ」の女性になりきっているんですよ。
 おしとやかで、清楚で、家庭的――そんな良妻賢母な女性にね」
 え。何。俺の所為なのか。

「その通り。ですからちゃんと責任とってあげてくださいよ?」
 まてまて。責任って何だ。あとお前面白がってないか。
「ふふ。すいません。安心……というには少し違いますが、とにかく満足するか飽きれば元の涼宮さんに戻られると思いますので、それまでは立派な旦那さんで居てあげてください」
 無茶言うな。旦那って言うな。ニヤニヤ笑うな。
「何か問題でも? 今の涼宮さんは完全に貴方好みの女性なんですよ」
「……うむむ」
 いや、まぁ、確かにおしとやかで清楚で家庭的で女性が好のみだ。
 好みだが――それはあくまで例えであって、本当に「好き」なのは……。
 頭を俯ける。ふんわりと上品に微笑むハルヒの顔を思い出す。違う。草原を埋め尽くす向日葵。太陽のようなハルヒの笑顔。あぁ、うん。やっぱりお前にはそっちの方がしっくり来るな。
「古泉、頼みがある」
「はい。何でしょう」
 ゆっくりと頭を上げて、耳打ちをした。
 古泉のにやけ度が三割増した。ちくしょうめが。

 遅れて女性陣がやってきた。
 勿論バァンと扉が蹴破られることなんてなく、静かにだ。
 オセロを打ちながら、古泉にアイコンタクト。にやり。くそ。
「……昨日のあれだが」
「はい。何ですか」
「好みのタイプの話だけどな」
 ――と。またもや俺に集まる視線。
 長門は無表情。朝比奈さんは少し困惑。ハルヒはふんわりとした微笑。
「確かおしとやかで清楚で家庭的な女性が好みだとか」
「いや、それは真面目に答えなくて良いだろうってとっさに口にしただけで、実のところ本当の好みとは違うんだ」
 ちらりとハルヒの顔を見る。
 ふんわりとした微笑みは消え、朝比奈さんと同じ困惑顔になっていた。
 すぅ、と軽く息を吸い込む。
 よし。腹は決まってる。いけ、キョン。この変なもやもやをふっきっちまえ。
「ほほう。それでは話を振られたということは、その本当の好みを教えて頂けるんですか」
「あぁ。俺は……いつも元気一杯で、勉強もスポーツも出来て、顔は可愛いのに口を開けば無茶なことばかり言って、他人の都合なんかお構いなしにグイグイ人を引っ張って、でも、どこか危なっかしくて、いつも傍に居てやら無いと心配な――そんな奴が好きだ」
 鏡を見たら俺の顔は真っ赤になってるだろう。
 いやもう恥しい。気がつかないうちに何処かで頭を強打したんじゃないだろうか。
「わ、わたし、帰ります……っ!」
 勢い良く席を立ったハルヒががたがたと帰っていく。
 
 そして次の日――
「おっはよ、キョン! まったく清々しい朝ね!」
「あぁ、おはよう」
 ――何時もどおりのハルヒの顔には、くしゃみが出そうなほどに明るい笑みがあるのだった。
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by kyon-haru | 2006-11-06 05:32


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