フリエンドス

 人間はどんなに真面目な奴でもたまに気紛れなんてものを起こすときがある。
 その日の俺がそうだった。俺が真面目かどうかは置いておくとして、それは本当にただの気紛れだった。

「それじゃ、皆また明日ねっ」
「……」
「それでは、僕もこれで」
 長門のハードカバーを閉じる音を合図として、SOS団の活動は閉店するのが決まりになっており、別段残ってする用事――朝比奈さんの着替えや不思議手紙による呼び出し、が無い者たちは帰れと言われなくてもすたこらさっさだぜい、と帰路に着くが普通だ。
 普通なのだが。着替えるから先に帰ってて、という朝比奈さんを残して部室を出た俺は、何の気紛れかソイツの背中に声をかけていた。
「古泉」
 声をかけられた少年エスパー戦隊こと古泉一樹は爽やかに振り向いた。
「何か相談ごとでも?」
 と、何時もの文無しスマイルで、俺の横に並んで歩き出す。
 俺がお前に声をかけるなんて何か厄介ごとが起きたときだけだからな。まぁ、普通のリアクションだ。
 しかし別に俺には相談ごともないし、ハルヒの精神状態を訊ねたいわけでもない。
 後者の場合は尋ねずとも自力で充分に分ると言った方が正しいがな。ここ突っ込むところだぞお前等。
「いいや。ただ普通にお前と話したかっただけさ」
 古泉は明らかに驚いた顔をした。珍しい者を見たと。
「それはそれは……光栄、なんでしょうか」
「俺に聞くな」
 みんな変だがコイツも変である。今更言うまでもないが。
 何だ。俺が普通に話しかけたら何か文句でもあるのか。
「そんなものあるわけがないでしょう」
 古泉は驚き顔をやっぱり光栄です、と諭吉くらいの笑みに変えた。喜んでいるのか? だろうな。何でだろうね。
「それで、いったいどのような話なんですか」
 そんなに期待に満ちた目をされても困るんだが。
「新しいゲーム買ったから、今度の休み俺の家に遊びにこねぇか」
 話と言ってもこんなもんなのだからな。
「都合が悪かったら別に良いぞ」
「いえ。悪くありません。是非とも行かせて頂きます。ええ、勿論」 
 ところが古泉は何故かどうして大変喜んだ。
 そこまで喜ばれるような事だろうか。違う。男子高校生だ。休みの日に友達と遊ぶくらいなんて普通も普通だろう。そんな普通を嫌う団長様も居るが。
「たまにはボードゲーム以外もしろ」
「そうですね。えぇ、非常に楽しみです」
 リアクションがさっきから大袈裟だっつうの。
「すいません。恥ずかしながらこういうものはあまり……」
「あまり、何だ」
「慣れていないと、言いますか。……経験が少ないもので」
 言って、笑顔を一転しけた顔をする小泉。
 そこで俺は閃いた。あぁ、なるほどな。
 三年前から。ハルヒの所為で超能力に目覚めたコイツは、機関のアルバイトとかやらが忙しくて、普通の男子学生とはかけ離れた生活を送って来ていた。
 だから、休みの日に友達と遊ぶ、なんて普通の事が珍しくて、慣れなくて、嬉しいんだということに。
 ……やれやれ。いざという時には長門の次に頼りになるくせに。
 俺の部活は手のかかる奴ばっかりだぜ。まったく。
「これから慣れていけばいいだろ」
 ばんっ、と俺は古泉のケツを蹴っ飛ばした。
「友達だろ、俺たち」
 吃驚してケツを抑えている古泉にそう言ってやる。
 非常にこっぱずかしい台詞のような気もするが、当たり前の事を言っているような気もする。
 谷口や国木田やらとコイツ。違うところは変な能力があるかないか。それだけだろ。
「……感動です」
 気持悪いことを呟いた古泉は、次の休みの日にお菓子やらジュースやらどっさりとお土産を持ってきた。
「また負けてしまいましたね」
 ゲームの勝負の結果とは裏腹に女なら素敵だと称するだろう笑みを浮かべるソイツに、
 お前を誘ったのは気紛れだった、
 なんて言える筈がなかった。――友達だからな。
 
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by kyon-haru | 2006-11-20 16:57


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