特にイベントなど無ければ、いつも団長席に居座りパソコンをしているハルヒ。
主にネットサーフィンがメインだが、さぞかしパソコンについても詳しくなり、マイクロソフトの検定にも受かるくらい知識があるんだろうなぁ――なんて考えはとんだ見当違いだった。
「ちょっとキョン、パソコンが壊れちゃったわ!」
「まぁ、カタチあるものは何時かは壊れる運命だからな」
「っさい! ちょっと来なさいよ!」
やれやれ、と溜息を吐きと思いつつ俺は団長席に赴き、画面を見た。
見て、ちょっとばかり驚いた。いや、かなり驚いた。
「……は?」
壊れたと言ったか? ハルヒは。うむ、言った。確かに。
しかしである。パソコンは快調に動いていた。
「どこが壊れてるんだ?」
モニタ画面にはヤッホーのホームサイトが表示されている。
どこにもおかしなところなんて無い。フリーズしているわけでも、ブラクラを踏んでいるわけでもない。……普通だよな。どこから見ても。
だというのに、ハルヒは、
「ひらがな打とうとしても全部ローマ字になっちゃうのよ!」
壊れたわ! むかつくわねっ! 何が最新機種よ!
と口をアヒルのように尖らしてぷりぷり怒り、
ちょっとコンピ研に新しいの貰ってくるわ! と騒いでいる。
……えーと、すまん。堪えようという試みは無駄だった。我慢できない。
「くっ、くふっ、あっははははっ」
「な、何よ! パソコンが壊れたのに何で笑ってるのよ!」
「い、いや悪い。……はぁ、これくらいなら俺が直してやるから、くっ」
腹筋を押さえつつ、CapsLockキーを押してやった。
「……ふざけてんの? そんなもんで直るわけないでしょ」
「良いからもっかい打ってみろって」
「むーっ。嘘だったら死刑だからね……って、あ!」
カタカタとキーボードを人差し指だけでタイプするハルヒ。
勿論、ヤッホーの検索語を打ち込むテキストボックスには見事にひらがなが羅列された。
「きょんのばか」 ……おい、こら。そんな物検索してどうする。
と、抗議しようとしたのが、それを見たハルヒが、
「すごいわっ! やるじゃないキョン! 見直したわよっ!」
などと本気で喜ぶものだから、可愛いやら面白いやら俺は笑いつつもネタばらしをしてやった。
お前が何かの拍子でこのキーを押して入力モードが変わってしまっただけで、壊れたのでもなんでもなく、寧ろ正常だと。
俺の説明を聞いたハルヒはころころと顔の表情を変えたが、羞恥に落ち着いたのか顔を真っ赤にして怒り半べそという不思議な状態になった。くっ、くくっ。
「なぁ、パソコンも満足に使えないようじゃ不思議はまだまだ見つけられないな、ハルヒ」
「ううう、うるさいうるさいっ! キョンのばかっ!」
「それにしてもくっ、ぶふっ、ローマ字しか出ないから故障か、ハルヒ、くくっ」
「だまれだまれっ! ばかっ! 何よ何よ!
こんなの知らなくても、ふ、ふしっ、不思議はみつけ、みつけられ、るう、うぅんだから……っ!」
そういう具合に半べそで泣き怒るハルヒ。ぽこぽこと俺を叩く。
いや、珍しいうえにちょっと可愛らしい光景である。
中々たつことのできない優位に居るし、このまま少しばかり観察したい気もするが、あんまりからかうのも可哀想だ。
俺はハルヒの頭にぽん、と手を置いた。
「怒るなって。今度教えてやるから、な?」
「いいわよ、べつにっ」
「俺の家にもパソコンあるから、休みはパソコン教室にしよう」
「……だから、」
「二人きりでマンツーマンしてやるかさ」
そこまで言ってようやく、ハルヒは機嫌を治してくれた。
むぅーっ、と唇を噛み締め、がしがしと目元を擦り、
「……そこまで言うんだったら教えてもらってあげても良いけど」
そっぽを向きつつそう言った。相変わらず素直じゃなかったが。
いや、ハルヒらしいと言えばとんでもなくハルヒらしいけどな。
「へいへい。団長様には手取り足取り丁寧に教授させて頂きますよ」
「……やくそくよ」
「かしこまりました、団長様」
芝居がかった動きで恭しく礼なんぞしてみる。
ぽこん、と力なく叩かれる頭。
「もう、ばかっ!」
――で。日は巡って休みの日。
ハルヒはマウスの使い方から教えろと言い出すのだが、それはまた別の話だ。
オチが弱い? 良いだろう、別に。