「あ、キョンくん」
きてくれたんだぁ。と満面の笑みを浮かべた朝比奈さんが教室に入ってきた。
歩を進めるたびに夕焼けに照らされた栗色の髪がふわりと揺れる。
来てくれた、だなんて謙遜と心配のしすぎですよ。あなたの頼みなら火の中水の中はたまた過去未来。
「うふふ、ありがと」
「いえいえ、……それで話っていうのは?」
朝比奈さんは軽い足取りで俺に近づいて、ひとつ息を吸った。
上目遣いの瞳には決意めいたものがある。真剣な話だと悟って俺も心を引き締めた。
「あのう、実は……」
朝比奈さんは体の前で指をもじもじと組みあわせ、瞳を揺らしてから、
「あなたは、わたしのお父さんなんです」
きっぱりとした口調でそう言った。
――ホワイ?
「あの、えーと、冗談でなければその、つまり?」
軽い沈黙の後、俺はこめかみを押さえつつまさかなぁと思いつつ、未来からやってきたオサセなキューピッドに真意を確認してみた。
だがしかし朝比奈さんはその愛くるしい顔を夕陽以外の何かにも茜色に染めて、
「――パパ」
雨にうち濡れた捨てられた子犬みたいな瞳であーあーあー反則ていうか犯罪だろコレ。
今すぐにでも穴を掘ってそこに隠れ頭をガンガンやりたい衝動に駆られながら、舌足らずな甘い声がパパとつぶやくたびに蕩け沸騰しそうな脳みそに活を入れる。
落ち着け落ち着け!
「朝比奈さん、いや、あなたが未来人だっていう事は知っていますし、いまさらなんのこうの言うつもりもありませんけれど、あとそれじゃあママは誰なのかなーじゃなくてですね、」
「そんな、苗字じゃなくてみくる、って呼んで。パパ」
「うわーうっひぃ! いやいやそうじゃなくてですね、いやもうなんと言っていいのか……」
「パパぁ……」
お願い、と。しととに濡れた瞳。
「みくる!」
何かとっても大事なものが爆発するように四散した俺は、思わずみくるを抱きしめていた。
年上の娘の髪の毛から漂う芳香に酩酊しつつ、(省略されました)