未来ハルヒ

 朝起きたらどえらいポニテ美人が俺の顔を覗き込んでいた。
 ちょうどハルヒを外見だけは正常に成長させたような顔つき。見るからに大人な妖艶な唇にどっきりしちまって、俺は再び目を瞑った。きっとこれは夢だ。
「二度寝すんな!」
「うぉっ!」
 夢じゃなかった。どえらい美人さんは誰かさんみたいな元気のよさで布団をひっぺがし、俺は慌てて跳ね起き朝でおっきな息子さんを手で庇う。
 羞恥に縮こまる俺を何故か美人さんはにやにやとした表情で見つめ、
「ねぇキョン。あたしが誰だか分かる?」
 再び誰かさんみたいな様子でそんなことをおっしゃる。
 ――凄く嫌な予感。
 その予感を現実のものにするのは忍びないが、また事件ですね、と観念しつつ答えを口にした。
「……ハルヒ?」
「そ。正確には未来のあたしってことになるかしら。んーと、六年くらい?」
 ってことはちょうど大学を卒業したあたりの年頃か。
 こりゃ今のうちに唾をつけて置くのも悪くないかもしれん、と邪な段取りをこさえつつ、俺は驚いていた。ハルヒが未来だの何だの言っている。
 つーことはつまり、
「もしかして長門や古泉や朝比奈さんの正体を知ってるのか?」
「ええ。あたし自身の変てこな力のこともね。弱まってうっすらしか残ってないみたいだけど」
 そういうことだよな。
 ハルヒが自分の力を自覚しても別段問題がないと今の時代の皆に聞かせたら安堵するだろうし、俺の気苦労も大分減るのだが、そうそう上手い話なんてあるはずもなく、
「あたし結婚してさー。みくるちゃんからのお祝いでこの時代に来させてもらったの。禁則事項がなんだのはめんどいから有希にお任せしたわ。あたしが帰る時にそのへん全部直してくれるらしいわ」
「ふむ」
 となると俺の記憶なんぞいの一番に弄られるわけか。そいつは少しばかり残念だが、仕方のない話だろう。タイムパラドクスうんちゃらを起こすわけにもいかないしな……で、それよりも重要なことを今ハルヒは言ったぞ。
「結婚って誰とだよ。どうせ記憶消されるんなら教えてくれ」
 ぜひぜひその物好きで苦労好きな不幸な男のことが知りたい。
 好奇心一杯の俺のきらきらした瞳を受け止めて、――ハルヒは何故か照れだした。心なしか俺を見る視線に熱が篭っている気がする。頬なんか染めちゃってお前そんなキャラじゃねえだろと突っ込みを入れたいがそんなハルヒは反則的に可愛くって、
「プロポーズはあんたからだったわ」
 うっとりとした口調でそんな事を言われた俺は、遠くない未来お脳の病気にかかることを知って戦慄に背筋を振るわせた。
 先ほど打ち立てた段取りを速攻でぶち壊し、助けて長門助けて古泉助けて朝比奈さん、と祈る俺に大人ボディのハルヒがしなだれかかってきて、
「あぁーもう駄目っ! 若いキョンかあいいー! ……ね、ちゅーしてもいい?」
「ほあああああ!」
 甘いかおりとやわっこい体で包み込み、頬をすりすりしやがる。
 ハルヒは発情期の猫みたいに興奮した顔でキスの許可を得んとするが、流石にこれは不味いって非常に不味いってだからおことわ――
「んちゅ」
 ほあああああああああ!
 唇を重ねた勢いでベッドに押し倒された俺はハルヒを押し返そうとしているつもりなのだが、実際には指先をぴくぴくさせるだけだった。口の中にぬるぬるしたざらざらが侵入してきた瞬間に俺の反撃ポイントはゼロになりました。
「はむ、ん……ちゅっ、ちゅる、んちゅ」
 完全完璧に大人のキスだった。
 これが口の中を犯されるってことなのね、と一瞬でふやふやにとろけさせられた頭でぼんやり思う。口内の音ってすげえ耳に響くんだなーハハハ。ちゅぴやらぴちゅやらくぐもった水音は異様にいやらしくて、恋人風俗の人がキスだけはお断りするのにも納得である。なんだそりゃ。
「んはぁ」
 日本の性風俗文化に対する見聞の広さを披露している間にキス地獄は終わり、ハルヒが唇を離した。まともに思考回路が働いていないのでそれがどの程度の時間だったのかは分からないが、潤んだ瞳で上気したハルヒの顔は法律に触れるんじゃないかと心配してしまうくらいけしからんの極みで、特に唾液でべたべたになった唇と口周りなんかは完全に違憲である。
 違憲歓迎。文句をいう政治家がいたら殴ってやる! と息を荒くする俺よりも更に荒くて熱くて湿った息をはきながらハルヒは、
「いつもは上下逆だから新鮮だわ。はぁ……んもう、かあいいったらないわね、キョン。んんー、その純真で初心そうな顔と反応、ほんとにキョンなの?」
 でへへ、えへへ、うふふ、ぐふふ、と様々な笑みを浮かべながら、んなこと聞かれたってどうしようもない事を尋ねてくる。 
 けれどただ一つ俺から言えることがあるとすれば、
「はっ、はぁ……おい、ハルヒ」
「なぁに? もっとしたい?」
「……あ、う、いや、てめっ、おんなじ俺でもな、こ、これって浮気じゃないのか」
 何時の間にか両手が頭の上で手首を合わせるようにして拘束されていて、ハルヒの空いている方の手が股間あたりをさわさわしているのにぞっくぞっくしつつ、言う。
 上手いこと言ってやったと我ながらピュアな自分に満足していると、
「ききき、キョン! あんたわざとそんなかあいい事言ってあたしをさそってんのね! そうなのね! きゃーっ、もう無理。ごめんね。有希に頼んでちゃんと童貞にしといてもらうし、天井のしみを数えてれば終わるから! ここまではしないつもりだったけど、結婚祝いだしいいわよね! んちゅうー」
 ほああああああああああああああああああ!
 大人になってもやっぱり頭の螺子が何本かぶっ飛んでいるハルヒが再び貪るように唇を重ねてきて、俺の意識はいい加減霞がかかったようにうっすらと――
 
 ………………
 …………
 ……

「毎年結婚記念日になるとな、こう、首筋のへんがぞわぞわするっつうか……」
「へ、へー。ふふふ不思議なこともあるもんねー」
「何でどもってる上に棒読みなんだお前」
「な、なんでかしらー。あは、あはははは」

 どっとはらい。
[PR]
by kyon-haru | 2007-07-12 02:47


<< 南国のみくる伝説 ポニー・ザ・クインテット >>