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アナルを出よう!

古泉「たたたた、大変だ!」
 
 いきなり慌ててスイマセン!
 僕の名前は古泉一樹。何処にでも居るしがない高校生エスパーです。
 とつぜんですが、聞いてください。
 僕は何時ものようにハッテンしてました。
 悲しいですが、擬似キョンタンでハッテンしてました。
 ねりからしをまぶした、大根です。
 それを僕の秘めどころにぶち込んでハッテンしてました。

古泉「ンヴォヴォヴォヴォ! アナッポォ! サイコォ!」 

 でした。天上の幸福が禍福でした。感激でした。
 ……途中までは。
 悲劇は突然やってきたのです。
 あろうことか、

古泉「アナル痙攣とは……! 世も末じゃあ!」

 ビリリリ! とアナルと括約筋に走った電流!
 それはトキメキ……愛の始まり、ではありませんよ!

古泉「世も末じゃあ! アナル痙攣じゃあ! たたりじゃあ!」

 抜けません!
 いえ、抜きましたが!
 違います!
 大根が抜けないんです!
 こういうときはSOS団の皆さんに助けていただくしかありません!
 というわけで、僕は大根がフォーリン、ラヴ、イン、ザ、アナル! したまま部室に駆け込みました!

古泉「助けてください! 大根がからしで抜けなくて、痙攣がアナルの世紀末です!」

 あまりの混乱に支離滅裂な台詞を叫んでしまった所為でしょう。
 部室に居たみなさんは、固まってしまいました。
 宮城県民を見るような目で僕を見ています。

古泉「アナル痙攣で大根がぬけません!」

 半裸の下半身を指差します。
 間違えました。
 チンコを指差してしまいました。

古泉「失礼。大根というよりは、さやいんげんでした」

 後ろを振り向きます。
 大根を振り回しました。ケツごと。腰をくねらして。
 
古泉「アッアッアッー! 激しい! ひさかたぶりの、世紀末!」

 うかつでした!
 深く挿入したままこねられると、快感です!
 抜きました!
 抜けてませんが!
 抜けてしまいました!
 
古泉「これは失敬!」

 何をやっているんでしょう僕は!
 慌てすぎです。まずは落ちつきましょう。

古泉「落ち着きたまえ! あらぶるアナルの神よ!」

 気合をいれます。
 全神経をアナルに集中して、気をアナルに集めます。
 セイ!
 ハッ!
 ブリッ!

古泉「ぬおおおおおおおおおおおおっ!」

 たたたた、大変だ!
 再び慌ててスイマセン!
 落ち着こうとアナルに気合をいれたら、ウンコが出てしまいました。
 いえ、栓がしっかりしているので出てはいませんが。
 とにかくウンコです。
 からしでなくて、付け味噌大根になってしまいました!

古泉「ビールのお供なぞクソ食らえだ!」

 ブヒッ!
 上手い事言いましたよ、僕。
 今上手い事言いましたよ!
 聞いてくれましたか!?

古泉「もういっぱつクソ食らえだ!」

 ブリッ!
 って、違う!
 アナルがウンコで大根抜けないんです!
 ウンコの勢いでもしや……だなんて、ただのペガサス幻想でした!

古泉「おい大根! 僕のケツの中で小便をしろ!」

 ああああああ!
 違う違う!
 何を言っているんだ、僕は!
 落ち着けよ落ち着け、クールになれ、ヒートガイ古泉!
 とにかく全神経をアナルに集中です。
 オーラパワーを括約筋に溜め込むのです。
 ……そして、一気に解き放つのです!
 セイ!
 アッー!
 ブリッ!

古泉「ウンコオオオオオオオオオ!」

 また出てしまいました。
 昨日食べた使用済み擬似キョンタンの所為でしょうか!
 分かりません!
 とにかく僕は落ち着きません!
 だから分からなかったのです!
 長門さんの股間から、トーテムポールが生えていたことに!

古泉「うほっ……良い民芸品」
長門「なかなかお目が高い。オメガは高い。ブヒッ!」
古泉「ぷくくくっ!」

 なんて面白いギャ、ブリッ!
 アッー!
 またウンコオオオオオオオオオオ!

古泉「ナガトオオオオオオオオオ!」

 貴方のギャグのせいでまたウンコですよ!
 どうしてくれるんですか!
 ウンコしすぎてデトックス要らずですよ!
 ていうか抜いてください!
 大根抜いてください!
 当初の目的忘れてました!

長門「うほっ! ……良い有機栽培」
古泉「そりゃあ僕は有機生命体ですから」
長門「ぷくくっ!」

 ブリッ!

長門「ウンコオオオオオオオオ!」

 あああああ!
 ダメだダメだ!
 宇宙の長門型長門ロボットは役に立ちません!
 こういうとき頼りになるのはやっぱり、未来のオーバーテクノロジーを持った朝比奈さんです。
 助けてください! 朝比奈さん!
 僕は大根、長門さんはトーテムポールでアナルが痙攣ウンコウンコです!
 って、アッー!

みくる「やってらんねぇよ、ったく、あー? ウンコウンコうるせぇんだよカスが」
みくる「大根如きでゴタゴタ抜かすかハナッタレが。こちとらフィストが朝飯前だ」

 やさぐれモードじゃないですか!?
 こうなるとダメです。彼女は二、三人半殺しにしないと元に戻りません!

みくる「かぁーっ! 未来アヘン最高!」 

 朝比奈さんもダメとなると……くううううう!
 やっぱりあの二人に頼るしかありません!
 キョンタン。
 涼宮ハルヒ。
 わが高が他高に誇る二大巨根に!

長門「セインート、セイーヤー!」
みくる「プロトカルチャーっ!?」

 たたたたた、助けてください!
 僕の大根のせいで、部活が崩壊の危機です!
 僕は懇願しました。
 ……しかし。
 とにかく僕は慌てていました!
 だからそれにも気がつかなかったのです!
 二人の……異様な姿にも!

ハルヒ「膣痙攣とは言い訳で、このまま妊娠するのです」
キョン「抜けません」
古泉「ナンテコッタイ/(^o^)\」

 部室内でヘテロハッテンですか!
 不純です!
 僕はあふるる涙を堪えませんでした!

古泉「……神は、死んだのですね」
神人「呼んだ?」
古泉「エエエエエエエエエ!?」

 
 大幅に略


 そうして、僕は神人と幸せに暮らしました。

 僕のアナルに突き刺さったまま生涯抜けることのなかった大根は、
 後にこう呼ばれることになるのです。

――根性大根、と。


古泉「みんな! 野菜を粗末にするなよ!」


 素敵に完
 
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by kyon-haru | 2006-12-24 06:31

水戸長門/胡麻和え長門

「やめ、て……」
 納豆を全身にかぶせられた長門は、嫌悪の表情で懇願した。
 宇宙人にはわからないだろう。
 そんな顔をされたら、地球人の青少年はもっとやりたくなるってことに。
「ねばねばだぞ、長門」
「それは、あなたが」
「あーあ、ねばねだだなぁ。見ろ、糸引いてるぞ」
 ほら、とうっすらと赤くそまった顔の前に手を持って行ってやる。
「……」 
 しかし長門は無言で顔を背けた。
 くっとかまれた下唇。ふるふると小刻みに揺れる体が、俺の神経を昂らせる。
「水戸納豆ってな、高級品なんだぞ?」
 言いつつ、パックを破った。
 適度にかき混ぜてから、長門の――全裸の長門の胸の上に、ねばねばをぶっかける。
「ぅ、うっ」
 ひくんとゆれる体。白亜のような素肌。
 控えめで小さな胸に、突起。そこに塗りこめるように、納豆ごともみこんでやる。
「あ、ぁ、ぅ」
「どうした? ねばねばなんて嫌なんじゃないのか?」
「……」
「気持ちいいのか? 変態だな、長門」
 くくく、と邪悪に笑う俺。
 さて、お次はいよいよ――口に出さなくても分かるだろう?
 このときの為にとっておいた、藁に包まれたガチ納豆を取り出す。
 手で適度にこねくり回し、良い具合にねばねばにする。さて、と。
「ここにもかけてやるからな?」
「いや……」
「も、いやよも好きのうちってな。地球の諺だ。今証明してやる」
 そろそろと俺の動きを阻害しようとする長戸の手を押しのけて、つつぅ、と指を走らせる。
「……ぅ」
 ぬるぬると這っていく指先。
 長門の口から漏れる呻きに、普段の無表情からは想像もつかない羞恥の表情。
 あぁ、たまらないぞ。たまらないぞ、長門よ。
「お前のここ、子供みたいだな」
 うっすらとした茂みを抜け、緩やかな曲線をなぞりながら、湿った最奥へ。
 ぬちゅ、という重たい粘液の感触を俺が指先に感じると同時に、長門の体がひくんと震えた。
「くぅ……あ、あっ」
「やっぱりな。長門は納豆のねばねばで感じちまう好きもんだ」
「ちが、う」
「違う? 感じてるんじゃなくて、これは納豆の粘膜とでも言うつもりか?」
 俺の問いに、長門は目をきゅっと瞑ったまま緩やかに頷いた。
「へぇ。なるほどなぁ。俺の勘違いか」
 まぁ、どっちでも構わないんだけどな。
 そう含み笑いをして、俺はもう片方の手で納豆をぶちまけ――

 ――時空がゆがみました――

「やめ、て……」
 胡麻ドレッシングを全身にかぶせられた長門は、嫌悪の表情で懇願した。
 宇宙人にはわからないだろう。
 そんな顔をされたら、地球人の青少年はもっとやりたくなるってことに。
「こうばしいぞ、長門」
「それは、あなたが」
「あーあ、こうばしいなぁ。美味そうだ」
 どれどれ?
 と、胡麻あえになった長門の乳首におもむろ口をつけた。
 小さな突起は確かに固くなっていた。それを唇で挟み込み、じゅるじゅると啜る。
 胡麻の味しかしないはずなのに、ころころと舌で転がしていると、不思議と甘を感じた。
「ぅ、うっ、あぁ」
 ひくひくと小刻みゆれる長門の体。
 片手でもう一方の胸の突起を弄くると、揺れが大きくなった。
「んうっ」
 白亜のような素肌に、てらてらと光る胡麻の茶色。
 上目で見上げた長門の顔はほんのりと赤く染まっていた。口を離して、問いかける。
「嫌か?」
「……いや」
「なんだ、酷いな。せっかく胡麻まみれを綺麗にしてやってるのに」 
 そんな人の好意を無碍にする奴にはお仕置きをせねばなるまい。
 俺は胡麻ドレッシングの容器を自慰の要領でシャカシャカと振り――

 ――時空がねじれました――

「キョンタン! 僕がウンコまみれに!」
「酷いオチだ……」
 肥溜めから上半身を出し、元気に手をふる古泉を見て、俺は世の中の無常さを知った。
 腕が動くたびにいろんなものがあたりにとびちっている。
 お食事中の方申し訳ない。
 けれど、パソコンの前で飯を食うのには感心しないな。汚れるぞ。いろいろとな。
「僕は穢れてます!」
「……」
「奇麗に! 奇麗にしてくださいよう!」
 俺は無言で踵を返した。
 さようなら、古泉。
 ていうか肥溜めがあるってここは何処なんだろう。
 早いところ帰りマンションに行って、生クリーム長門だ。
「放置プレイですかー!?」
 
 ――時空が収束しました――   
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by kyon-haru | 2006-12-24 04:50

夕凪プロミス

 なんてことはない、普通の日だったと思う。
 皆おそろいの大学に進学し、部活からサークルに昇格したSOS団で高校時代となんら変わりない活動を終えた、帰り道。
 下宿先のアパートが隣部屋なのは高校の時の席順と同じ原理なんだろうハルヒと並んで歩く、夕暮れの街。
「あの教授さあ、もうろくしてんじゃないかしら? もごもご小さい声で何言ってるか聞き取りずらいし、まっすぐ立てないくらいふらふらだし」
「構内では言うなよ。単位欲しかったらな」
「分かってるわよ」
 長く伸びる二人分の影絵を眺めながら、何時ものたわいのないお喋りをする。
 ハルヒは大学に来ればもっと面白いと思ったのになぁ、と枕を置いてから、そんな不満をこぼすのが日常だ。
「キョン、あんたこそ気をつけなさいよ。留年したら死刑なんだから」
「死刑って、子供かおまえは。来年で二十歳だっつうのに」
「うっさい。進歩してない子供なのはあんたでしょうが」
 そう言って、むーっと俺を睨みつける。
 そんな風に何時の間にか俺を矢面に強引に移動させるのも日常だが、酷い言い草だ。確かに成績は落第ぎりぎりだが、人間的には成長してるつもりだぞ。
「ふーん。成長ねぇ」
「文句があるなら書面で貰おう」
「嫌よ面倒くさい」 
 ふん、と息を吐いたハルヒは、
「いい? あんたってば探索の時はいっつも集合遅いし、あたしがご飯お裾分けしないと直ぐ飢え死にするだろうし、みくるちゃんに直ぐでれでれするし、部屋は汚いし、あたしが起こしてあげないと大学も遅刻するし……」
 とかなんだのと、口頭で俺の欠点を次々とあげつらえる。
 それもやけに機嫌良さそうに。
 おい、こら。俺が駄目人間で何で嬉しそうにするんだよ。
「嬉しそうになんかしてないわよ。嘆いてるじゃない」
「いいや、笑ってたね。楽しそうに」
「楽しいと嬉しいは違うのよ」
「……そうかぁ?」
「そんな事も分からないから何時までもたってもキョンはアホキョンの馬鹿キョンなのよ」
 それとエロキョンね! と満足そうに付け加えるハルヒ。
 俺がアホで馬鹿なのは自分でも認めるが、正直ここまで言われるとむっとくるぞ。
「待て。誰がエロだこの野郎。俺がおまえに何をした」
 何もしていないと神に誓っていえるので、そう反論する。
 ……いや、高校時代にキスは一回してるがな。あれは事故みたいなもんだからノーカンだ。そういうことにしろ。
「ふんだ、何よ」
 かぁ、とカラスが鳴く。
 そっぽを向いてしまったハルヒの横顔は夕陽を背負ってる事もあって、その表情を読みとることが出来ない。
 っても、どうせ不機嫌顔してるんだろうけどな。 
 そう思った俺が、やれやれと肩をすくめようとしたその時だった。

「……何もしないからあんたは大馬鹿なんでしょ」

 物憂げに、ぽつりとハルヒが囁いた。
「――は?」
 台詞にこめられた意味と全然不機嫌じゃないその声音に、俺が驚愕するのも無理がない話であり、
 さらに続いたハルヒの言葉に、
「せっかくあたしが通い妻してあげてるのに」
 驚愕に加えて唖然茫然としてしまって、
「――はえ?」
 そんな素っ頓狂な声をあげるくらいしか出来ないのも仕方ないだろう。
「何て声出してんのよ」
 ハルヒの叱責に、急な事で白鳥座のかなたに吹っ飛びそうになる意識を何とか維持する。
 それでも頭の中は暴れ馬のロデオの跳ね回りよりも混乱のきわみで、あぁ、もう、何なんだ。
 取り敢えず待て、待ってくれ、何なんだこれ。何だこの展開は。
 いや、待たなくていい。分かる。人生初体験だがこれくらいは俺でも理解できる。
 遠まわしのようで真っ向に直接的な告白だ。
 あのハルヒから俺への。
 そう分かるし理解できるんだが、えーと……何ていうかだな、
「なぁ、ハルヒ」
「……なぁによ」
 こういう時どう答えていいのかは全然分からないし、知らない。
 しかし絶対に何か返さないといけないという事だけは幾らなんでも承知であり、そういう訳なので、

「卒業したら、結婚しようか」

 ハルヒの”妻”という言葉に影響されてそんな事を思わず後先考えずにというか考える余裕なく口走ってしまい、
「……あんた、ね」
「うん」
「いきなり飛躍しすぎじゃない?」
「そうか」
「そうよ。順序ってもんがあるでしょうが」
「そうなのか」
「そうに決まってるでしょ!」
 くぉの超馬鹿キョンが! と、そっぽを向いたままどやされてしまった。
 あほう、とカラスが鳴く。
 だんだん混乱が収まってきたのか、歓喜とか羞恥とかいろんな感情が湧き上がってきて--るはずなのだが、カラスの鳴き声にそうだな。アホだな、俺。うん。と変に納得する。
 まさか鳥類にまで指摘されるとはびっくりだ。人間としてどうなんだ。
 がっくりと肩を落としつつ、それでも聞いてみる。
「……で、どうなんだ」
「なにが」
「結婚、してくれるのか」
 今更だがとんでもない会話だ。だが、ここまで来たら引けない。
 ――なんで引けないかって? 
 いや、そりゃあ、決まってるだろうよ。一つしかないだろう。
「……ねぇ、キョン」
 ハルヒが今しがたの怒鳴りは何処吹く風といった様子で、振り向く。
 その顔は、半分が夕陽に照らされて真っ赤で、半分が影の所為で黒かった。
 アンバランスな色彩だというのに、それでもちっとも変だと思わない。
「何だ」
「うん。あのね、答える前に一つ聞きたいんだけど……」
 そこまで言って、ハルヒは珍しく口ごもる。
 もじもじと体を揺らせて視線をふわふわ彷徨わせて、何だか挙動不審だ。
 どうしたんだ? 聞きにくいことなのか?
「違うわよ。……えーと、あー、うー……、あ、あんたは」
「俺は?」
「その、……あたし何かで良いの?」
 そう、そんな不安顔で言われてもだな。
「こんな駄目人間好いてくれるやつ、お前ぐらいだしなぁ」
「……非常に不愉快な回答なんだけど」
「好いてる、って所は否定しないんだな」
「しないわよ。文句ある? あったら書面でちょうだいよ」
「断る。面倒くさい」
 ふん、と俺は息を吐き、
「お前はいっつも無茶ばかり言うし、雑用全部俺に押し付けるし、奢らせるし、団のみんな困らせるし、危なっかしいし、倣岸不遜だし、……他にも色々あるが、なんだ。俺はそんなお前に好かれて嬉しい」
 一気にそう言った。
 ハルヒはむっすぅとした顔でそれを聞き終えると俯いて、はぁ、と俺ばりのため息を吐いた。
 そしてゆっくりと顔をあげて、一転くしゃみが出そうなほどの明るい笑顔を浮かべる。
「決めたわ」
「うん」
「あたし、あんたと結婚してあげる」
 感謝しなさいよ!
 と、本来なら驚くべきだろうその返事を、すんなりと受け止めた。
 頭の中に溜まっていたもやもやがすぅっと晴れていく感じ。
 ふぅ、と安堵の息を吐いて、大学に入ってからというものの神聖な程に似合っているポニーテールに、本心からの賛辞を送った。
「……そうか、ありがとう」
「いいわよ、別に」
「先に謝っとく。迷惑かける、絶対」
「そうね。あたしもそう思う」
「否定しろ」
「ばっか。何言ってんのよ、この駄目亭主」
「うるせぇ鬼嫁が」
「あら。分かってんじゃない。あんた、あたしを宇宙一幸せにしないと死刑なんだから」
 道端だというのに思わず抱きしめてナニしたいような笑顔にくらっとくる。
 あー、なんだかさっきから頬が熱いなちくしょう。だけど、
「そのつもりだよ」
「つもりじゃなくて、絶対だと誓いなさいよ」
「その健やかなるときも、病めるときも,……とかいうやつか」
「それは結婚式の愛の誓いでしょうが」
 それを心地よいと感じながら、俺は歩調を緩めた。
 何だか、ずっとこのまま二人で歩いていたかった。
「ちょっと、遅いわよ」
「お前が早いんだよ」
「時間は有限なのよ? 一分一秒でも無駄にせず有効に使わないと勿体ないじゃない」
 口ではそう言うくせに、ハルヒの歩調もだんだんと緩まって、俺と同じになった。
 つめたーいつめたーい、冷やしわらびもちー、とおっさんの声が聞こえる。
 そうして、二人。宵闇が包み始めた街をゆっくり、ゆっくりと歩く。
「なぁ、ハルヒよ」
「なぁーによ」
「お前の親父さんって怖いのか」
「そうでもないわよ。残念なことに普通よ、普通。ただの野球好き」
「そうか。助かった」
「何よ根性なしね。しゃっきりしてよね。娘さんは俺が頂いた! くらい言いなさいよ」
「無茶いうな」
 どちらからともなく、手を握る。
 冷たくて小さい、とか、以外と大きいのね、とか、結婚するのに何でそんな事で驚くんだろうね。俺たちは。
「これから知っていけば良いわよ。時間はたくさん有るんだから」
「時間は有限だから無駄にしちゃいけないんじゃないのか?」
「だから一番楽しい事に使うんでしょ」
「嬉しい事言うじゃねぇか、お前」
「あたし、キョンの事好きだもん」
「恥ずかしいこと言うじゃねぇか、お前」
「今夜こそ何かしなさいよ、この甲斐性なし」
「するともさ。俺、ハルヒの事好きだから」
「……ばか」
 きゅっと、手に力がこもる。
 どちらが籠めたのか。俺か、それともハルヒか。二人ともか。
 ともかく、冷たかったハルヒの手は温くなっていて、嬉しかった。
「……」
「……」
 それきり気恥ずかしくなって、暫くを無言で歩いた。だが、ちっとも嫌じゃない。
 五分か十分か。永遠を一秒と感じながら、それだけの時が流れる。間の距離が縮まった影絵は長く、その先には曲がり道があった。
 そこを右に曲がり、高校時代を思い出す長い坂の上に俺たちの住まいはある。
 もうこんなところまで来ちまった、まぁ駅から歩いて二十分くらいだからしょうがないか、とすくめそうになる肩をけれどすくめない。
「……色々大変だな、これから」
「そうね。でも、二人なら大丈夫よ」
「そうだな。……うん、そうだ」
 そうだ。大丈夫。俺たちは大丈夫。
 なにせ今始まったばかりで――もしかしたら、あの日から既に始まっていたかもしれないけれど。
「家事は分担するんだからね」
「へいへい」
「記念日は絶対忘れないこと」
「へいへいへい」
「……浮気のうの字でもしたらどうなるか、」
「いや、それはありえない」
 ともかく確かなのは、とても幸せで――だから、この先どんな事があってもこの手を離すまいと、そんな事を考えるのだった。
 ……なんてことはないさ。
 普通に、恋をして生きて行く、たったそれだけだろ。






 関係ないが、何時もより豪華な夕食の後。
「……子供は女の子が良いからね、あたし」
 えーと、詳しくは分からないけど俺の塩梅じゃどうにもならないと思うよ、うん。つか気が早いって。
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by kyon-haru | 2006-12-14 10:28

テキサスシュール勃起物語

 むっかしーむかしー古泉はー。

古泉「おや、女の子がいじめられていますね」

 彼の名前は古泉一樹。しがないサラリーマンエスパーだ。
 そんな彼は晴れやかな天気の今日、獲物を求めて海岸を歩いていた。
 日本海が似合う渋い男を物色していたのである。
 しかし見つけたのは、数名のガキにいじめられている女の子だった。
 無視しよう。
 ていうか、ガキの男の子の方を攫ってしまおう、フヒヒ!
 そう考えた古泉でしたが、やはり女の子を助けてあげることにしました。
 たまには人助けもいいでしょう。
 最近大根で色々と懲りていた彼は、なけなしの善意を振り絞ったのです。

古泉「おい、ガキ。やめないと俺のバルカン砲が火を噴くぞ」

 アナルをガキに向けてドスの聞いた声をだします。
 バルカンの弾はウンコです。
 これを食らえば、スカトローンな人以外はひとたまりもありません。

ガキ「わぁー! ほんまもんの変質者だぁ!」

 世界遺産並の彼のアナルの後光の前に、ガキどもは逃げ出しました。
 
古泉「うほっ……少年達よ、良いおとこになるんですよ」

 ガキどもを見送りながら、古泉は勃起しました。
 一番背の高い彼、見込みがある。良いケツをしている。
 やはり攫っておくべきでしたか……。
 古泉はすこしだけ後悔しました。 
 しかし、女の子のことを思い出してワレに帰りました。
 怪我などをしていたら、病院の紹介くらいまではしてやるつもりなのです。
 古泉の振り向いた先には、たいそう可愛らしい女の子がおりました。

みくる「たしゅかりましゅたぁ……ふひー」

 めそめそ泣きながら、女の子はお礼を言いました。
 舌が足りなさ過ぎて、古泉には何を言っているのかよく分かりませんでした。
 僕がふつうの性癖なら勃起するんでしょうね。
 古泉は見当違いなことを考えました。
 女の子は、服を着ていなかったのです。

みくる「ありゅがとうごじゃいましゅ。あのう、あなたのお名前は?」
古泉「名前ですか……ふ、僕のような人間に名前など」

 警察のご厄介になったことがある彼は、カッコウつけました。
 アナルから少しウンコが出ました。
 己の言葉に酔ったのです。
 中二病でした。死ねばいいのに。

みくる「しょんなことおっしゃらずに、どうか」
古泉「……仕方ありませんね。人は僕のことをこう呼びます。ナイスゲイ古泉と」
みくる「ナイスさんですね」

 某AV監督みたいに女の子は言いました。 
 古泉はアナルに笛をつっこみたい衝動を抑えながら、勃起しました。

古泉「怪我はないですか?」
みくる「ひゃい。ないでしゅ」
古泉「それはよかった。それでは、僕はこれで」

 古泉は今日は擬似ハッテンで我慢しますか、と踵を返そうとしました。
 しかし女の子は、下半身丸出しの古泉を呼び止めました。

みくる「まってくだしゃい、ぜし、お礼をさせてくだしゃい」

 お礼。
 その言葉に古泉は勃起しました。
 もらえるものや、してもらうことは素直に受け取るのが彼の心情です。
 ですから、尺八が大好きなのです。楽器のことです。死ねばいいのに。

古泉「それはそれは、よろこんで」
みくる「ひゅいー、どうもでしゅ」

 助けてくださった人をないがしろにしたら、怒られるところでしゅた。
 女の子はふわふわしながらそう言いました。
 怒られる?
 その言葉に古泉は勃起しました。
 彼はドを越したMだったのです。
 略してドM。ていうか、勃起しすぎです。

古泉「ひとつ尋ねますが、貴方を怒るのは男の人ですか?」
みくる「そうでしゅ。いつもはやさしいしとですけど、怒るとこわいでしゅ」
古泉「なんと!」

 古泉は勃起しました。
 これは金玉から精子。
 思わぬところに幸運が転がっているものですね。
 いい男に会えるかもしれない。古泉はウンコを漏らしつつ、勃起しました。

みくる「どうしゃれましゅたか?」
古泉「いえ、キニシナイでください。して、そのお礼をしてくださるのもその人なのでしょうか」

 古泉は尋ねました。
 ここまで来てぬか喜びはゴメンです。
 勃起しつつ、目を血ばらせました。

みくる「そうでしゅ。わたしは何もできましぇんが、わたしを助けるということはあのしとを助けるのも同じでしゅ」
古泉「ウッフー!」
みくる「でしゅから、お礼もあのしとからさせていただくでしゅ」

 古泉は女の子の言葉に勃起しました。 
 ――YATTA!
 はっぱ踊りをしながら、古泉は喜びました。
 人助けしてみるものです。
 彼は己に善意が残っていたことに感謝しつつ、勃起しました。

みくる「それでは、わたしについてきてくだしゃい」
古泉「ええ、公衆便所でもどこへでもついていきます!」

 たたたたた、大変だぁ~!
 おしっこためておいてよかった!
 古泉はスキップしながら女の子についていきました。
 勃起しながら歩く日本海の海岸は、最高でした。
 勃起してしまいました。
 
みくる「ここでしゅ」
古泉「おお……なんと!」

 しばらく歩いてそこにたどり着きました。
 そこは……なんと、現実の世界でした。

古泉「――まだ、抜けてない」

 まばゆい閃光に包まれて、古泉は帰ってきました。
 アナルに違和感……いや、馴染み深い感触。

古泉「また、こうしてウンコをもらしいてる……」

 古泉のアナルには大根が刺さったままでした。
 高校生のあの日から、ずっと。
 大根は腐らずに、彼の体と融合してしまいました。
 ――夢を、見ていたのでしょうか。

古泉「いえ、もしかしたら、こっち夢なのかもしれませんね……」

 そうであればいい。
 そのほうがいい。
 古泉は溜め息をはきました。
 いい加減、フリスク入れたい。
 今日はハードボイルドな気分です。

古泉「――もうすこし、眠るとしますか」

 古泉は目を瞑りました。
 そして直ぐに、深い深い眠りへと落ちていきました。
 ……次に目覚めたときは、幸せでありますように。

 ~GOOD END~
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by kyon-haru | 2006-12-10 06:09

涼宮ハルヒはしあわせ 第六話


 全部ほったらかしにして、逃げ出して、引き返せと囁く声は確かにあった。
 それはパンドラの箱めいていた。しかし、それでも開けたのだ。開けると決めたから。
 
 勢いよく開けた扉の先を、

「っ!?」

 ドクンとひときわ大きく高く跳ねる心臓を強引に押さえつけ、
 俺は目を閉じずに其処を睨みつけた。

「つ、はっ!」
 
 知らず止めていた息。爆発するように息を吐く。
 眼前に広がる光景を視界に納めて、俺は気が抜けるのを感じた。

「……はぁ、はっ」

 ――部室の中には、誰も居なかった。

「ふ、ふう……」
 もう一度息を吐く。がちがちに固まっていた体が一気にほぐれていく。
 眼前に飛び込んできた光景を、ゆっくりと咀嚼するように認識していった。
 意を決してやってきた部室――其処には、誰も居なかった。何度も視線をめぐらす。確かに誰も居ない。 
 ……しかし、だ。
 誰も居なかったが、室内は酷い惨状を呈していた。
「……なんだ、これ」
 踏み入れようとした足は反射的に止まっていた。
 入り口で立ち尽くす。誰も居らずにほっとした気持ちもあった。あったが、一拍遅れてそれに気がついて、そんな物は吹き飛んでしまった。
 倒されたテーブル、椅子。団長席。掃除道具箱。
 めちゃくちゃに壊れて基盤やケーブルが飛び出しているパソコン。ボードゲーム類。
 飛び散って散乱したハードカバーの本に、ズタズタに切り裂かれたようにぼろぼろなコスプレ衣装に、罅が入っている黒板、割れた湯飲み道具。
「……」
 酷い。高い震度の地震でもあったのかと疑う。ハリケーンが通り過ぎ去った後のような悲惨な状態だった。
 何枚も割られた窓ガラスの隙間から、雨風が吹き込んできていて、水浸しにもなっていた。そのガラス片もあちらこちらに飛び散っている。
「……」
 ……目を覆いたくなる。
 足の踏み場もないほどに荒れ果てていて、文芸部かつSOS団の部室は何時の日か感じた憩いの場なんて物から遠くかけ離れた空間になっている。
 いったい、何があった……?
 もしハルヒと朝比奈さんに何かあって取っ組み合いになったとしても、ここまで荒れ果てるワケが無い。変な能力があるとはいえ、体は普通の女子高校生なんだ。
「何なんだよ、おい」
 雲に阻まれ陽光は届かない。薄暗さは室内の異様さを増しているような気がして、取り敢えず灯りを――と、スイッチを押して何の変化も無いので気がつく。
 天井を見やれば、蛍光灯さえも割れていた。
 無事、というのが適当なのかはわからないが、ともかく荒れていない場所はドアだけのようだ。そのドアも、今は見えない内側は傷やら何やらついているだろうが。
 ――悪い予感を感じられずにはいられない。
 誰も居ない。けれど、確かに何かが有ったのは間違いない。
 何せ、部室には鍵がかかっていたのだ。もしも見回りの用務員あたりがこの部屋の様子を見ていたとしたら、鍵なんかかけない。鍵をかけてもドアに「立ち入り禁止」とか何か張り紙くらいするだろう。
 そしてこの部屋には普通の生徒は近づかない。稀に酔狂な輩――宇宙人連中を除く――がやって来た事もあったが、ソイツ等が見たとしたら職員に報告してなんらからの措置がとられているだろう。
 だから。
「――ハルヒ、お前なのか」
 これをやったのは、確実に部員の誰かだ。
 その誰かも、正しくは一人しか居ない。狂気に任せて暴れまわりそうな奴。そうしてもおかしくない奴。
 窓を割り、何か鈍器でパソコンをぶっ壊し、本棚を引き倒し、刃物で衣装を引き裂いただろうソイツは――おそらく、いや、ハルヒだ。
 床に張り付く足を無理やりに、室内に進めていく。
 ガラス片など怪我をしそうな物を踏まないように、触らないように、注意しながらテーブルやらを移動させて通り道を作っていく。室内に入ることで窓からぶつかってくる雨をどうせ今でも十分に濡れ鼠だと無視する。
「……無い、よな」
 そしてざっと捜索する。
「……よし」
 雨で流れてしまったかもしれないが、――血痕とかそういった物は取り敢えず見る限りでは無いようだ。刃物や凶器の類も落ちていない。
 テーブルの裏や衣装にもまぎれていなかった。ガラス片が酷くて近寄れぬ場所は詳しく調べられないけれど、恐らくだが此処にはそういう嫌な物は無いようである。
 しかし、だ。
 スペースを作り、其処にパイプ椅子を一つ広げてそれに座る。こめかみを揉み解しながら、考える。
「――」
 この部室の有様。此処で何か有ったのは間違いない。
 それはおそらくハルヒが暴れた――というところ。
 そして誰も居なかった、血痕も凶器も無かった、という事は殺傷沙汰は起こらなかったという事なんだろうか。
 ……起こらなかったのだろう、おそらく。そう、少なくとも此処では起こらなかった。
 ――ただ、それだけだ。
 此処で無いだけで、別の場所で朝比奈さんは殺されたかもしれない。
 昂った感情そのままにハルヒは部室で暴れに暴れ、きったところで落ち着き、鍵を閉めて下校――何らかの方法謀略算段かで行方を眩ました、というのが正解かもしれない。間違いかもしれない。中途半端だ。
 確固たる物にするためには朝比奈さんに連絡が取れればいいのだが、学年違いの彼女の電話番号や住所は連絡網には乗っていないし、携帯の方は思い出せない。
 月曜日まで待つなんて事は出来ない。……鶴屋さんに助力を求めれば良いのだろうか。彼女なら連絡先は当然知っているだろう。しかし、巻き込むんで良いのか。
 それにだ。朝比奈さんの無事を確かめるよりもまず行方知れずのハルヒを探索した方が良いのではないかとも思う。
 何の手がかりも無い。心当たりも喪失してしまったが、アイツの母親さんの不安に満ちた声を聞いた所為もあるだろう、どうしても想いはそっちに強く指向される。今日中に何も進展も無ければそれこそ警察沙汰になってしまうのだから――朝比奈さんにもし連絡が取れなかったら、彼女に何か有ったという事になってしまうから。
「はぁ」
 ちくしょうめが、と。こめかみから手を離し、溜息を吐く。
 度重なる激しい運動で熱していた体は何時の間にか冷え切って、その肺から押し出された空気だけが熱を持っていた。やけに熱いなと思って、とたん自分は独りなのだと何故か変に自覚する。それを拘泥も忌避もしない。
 あぁ、もう。心中でひとりごちる。まったく今日は悩みに悩んで思考回路を酷使する一日である。それも答えの出ない事で悩むのだから性質が悪すぎだ。
「――」
 悩む暇があったら行動しろとか誰かが言っていたような、おぼろげな記憶がある。その通りだった。今の悩みは行動で解決できる悩みだ。本当の本当に悩んでいても仕方ない。
「寒い、な」 
 茫然と呟く。遠く背後では、何度目かわからない雷鳴が轟いて、残っている窓と室内を震わせていた。
 横殴りの強風に乗って進入してくる雨粒のいくつかが背中にぶつかって、弾けている。ぶるり、という悪寒は体の不調を訴える類のものだろう。
 こっちの方もこのままじっとしていても仕方ないみたいだ。
 風邪は決定稿だろう。肺炎になんぞかからなければ良いなと、うわべで己が身を心配しつつくしゃみをかましつつ、思考を纏め上げる。
 ――よし。決めた。決心する。兎に角日が沈むまでハルヒを探そう。何も見つけれなかったら、鶴屋さんの家を訪ね朝比奈さんに連絡を取る。
 そして――朝比奈さんと連絡がつかなかったら、そんな最悪の場合は長門のところへ行く。
 アイツなら誰が何処に居て何をしている、それも大事な大事な観察対象ならなお更詳しく知っているだろう。知らない教えないなど言わせない。アイツにばかり頼るのは悪いとか考えていた俺はもう居ない。何をしてでも吐かせてやる。
 俯き頭をひねりつつ、唸る。
「アイツの行きそうな場所、か」
 天候を踏まえて考えるとそう多くは無い。
 俺の知らないアイツの買い物先だとか遊行先だとかは確実にあるだろうが、この雨の中泊りがけでそんなところに赴いて居るとは考えにくい。
 交友関係が狭いのが救いだろうか。どこか人知れず野宿や安宿に身を寄せるなんてスリリングな事をしでかしているかもしれないが、あれでも女だ。
 ならば、……ああ、なんだ、くそったれ、それなら長門の家が一番の候補じゃないか。
「はっ」
 気が抜けて吹き出してしまった。自分が可笑しかったのかもしれない。
 そう有ってほしいと願った折念が、長門の家にでも泊まりにいって連絡をたまたま忘れて、母親の呼び出しに応えないのは携帯の電源が切れたの何だのだったからだ。
 もしハルヒが長門の家に居たなら、取り敢えず馬鹿野郎と頬をはってやろうと思う。
 殺すとかふざけた事言いやがって、部室をあんなんにしやがって、親に心配かけやがって、と。
 顔を見るのも本当は忌々しいのだと心の中で呟く声がするが、そうしてやろうと決める。
 もし居なかったらそのまま長門に問いただせば良い。
 ――そしてもしハルヒが居て、なおかつ

 あの女なら、殺したわよ

 ――笑いながらそう言いやがった、その時は。
 ――長門から聞き出した場所に居たハルヒが同じ事を言った、その時は。
 
 俺は……俺は……、

「俺は――」

 俺は――いったい、どうしようと、考えたのだろうか?
 ワカラナイし、シラナイ。けれどそれで良い。その時はその時で、その時の自分に任せよう。
 逃げるのも良いだろうし、俺がハルヒを――して、その後俺も……で、全部を終わらせるのも良い。
 良いけれど、そんなものは考えない。いや、考えたのかもしれない。けどやはり、その時になってみないとどうなるか等確定できない。
 そんなことよりも、だ。とにかく、今確かなのは、

「――あ」

 不意にした足音とがたんという物音を不審に思い、俯けていた頭を上げたその先。
 感じた人の気配。見回りの先生や、他の生徒だったら面倒な事になったなぁ、ちくしょう、と内心毒づきつつ、見やった部室のその入り口に、

「よか、ったぁ」

 ……俺と同じく濡れ鼠になっている朝比奈さんが、今しがたまでどうなったんだろう、何処に行ったんだろう、何が起こったんだろうと心を軋ませる要因だった朝比奈さんが――

「やっぱり、キョンくん、だったぁ……」
 
 ――ぐったりと気を失っているらしいこの一連の出来事の根幹であるハルヒを肩に担いで、俺の顔をみやり安堵の息を付いている、という事なのだから。

 

 俺の体は自然に動いていた。
 傍目からにも一目瞭然に、二人は何があったのか一人は気を失っているだろうで、一人は酷い格好で疲弊している。
 問いただしたかった。昨日何があったのかと、叩き起こし、あるいはその今にも崩れ落ちそうになっている体を蹴っ飛ばして、根掘り葉掘り問いただしたかったさ。
 けれどそうはしなかった。出来なかった。
「――っ!」
 急いで駆け寄って、気が抜けたのか今まさに崩れ落ちようとする二人ともを、腕を広げて纏めて抱きかかえる。
 濡れているとか関係ない。どしん、という予想以上に重い感触に倒れないように、足を踏ん張った。
「キョン、くん」
「大丈夫ですかっ。何があったんですかっ!?」
 腕の中の蚊細い声の、倍以上の声で聞く。
 想像なんて出来ない。二人ともに生きているのだから、良い結果なんだろうが、それでも思いもしなかった展開である。斜め上を吹っ飛んでいる。何がなにやら、近日中で一番ワケが分からない。
「わたしは、」
 濡れぼそった前髪をおでこにはりつけて、朝比奈さんははかなく俺を見上げた。
 彼女の吐き出す息が、冷たい体温と世界の中でもっとも熱を帯びていた。
「わたしは、大丈夫……」
 ――でも、という枕と茫然とゆれる瞳にぞっとする。
 右腕の中のハルヒの顔色は青白く唇は紫にすらなっている。近くで見れば、口元に痣まであるのが分かった。
「涼宮さんが……」
 じわりと、目元に浮かぶのは雨じゃない。
「ハルヒはどうなってるんですか!?」
 逸り猛る気持ちが、音量調節という機能を無いものにする。
 朝比奈さんの口元に耳を寄せながら、俺は声を張り上げていた。
「きのう――」
「昨日っ!?」
「……っ」
 ふわっと、まるで背中に羽でも生えたのかのように。
 昨日。その続きを発することなく、朝比奈さんもまた気を失った。ぐったりと俺にしなだれかかり、片方の支えを失ったハルヒの体が滑ろうとする。
「……いったい、何なんだよっ!」
 怒鳴りながらも、腕はしっかりとそれを支えた。
 泣きたいくらいに混乱しているが、感じる体温の低さにもっと泣きそうになる。
 こんなに体温が低かったら死んでしまうんじゃないかと思う。何があったんだ、本当に。何で痣なんか作っていやがる。気絶していやがる。何時も何時も迷惑しかかけない。騒ぎばっかり起こす――あぁ、どうして俺は、コイツが居なくなるかもと想像しただけでこんなにも心が震えるんだ。くそったれ。ちくしょう。
「目を覚ましたら詳しく聞くからな……馬鹿」
 囁く。目元から頬にたれていた雨をぬぐって、俺は先ほど作ったスペースにそっと二人を寝かせ、部室を飛び出した。

 

「このぉっ!」
 隣のコンピ研の部室のドアをありったけの力で蹴破った。ばぁん、という威勢の良い音の向こうには整然と並ぶ黒いモニタ画面たち。誰も居らず、室内は荒れても居ない。当然だ。
「ふぅ、ふっ、は、はっ……!」
 旧校舎のぼろいつくりに感謝しながら、俺は次に新校舎の保健室に走り、タオルと毛布を何枚かと体育の授業があるのに体操服を忘れた生徒の為の予備のそれを男子一着女子二着分見繕ってきた。休みだからと職務を行わず部屋だけ解放している教諭を恨めしく思いもするし、それで助かったとも思う。
 ……いったい今日だけでどれくらい全力疾走しただろう。一年分はしている気がする。
 何人かの怪訝な視線がぶつけられたが、そんな下らないものに構っていられない。
 毛布と体操服をコンピ研の部室に投げ入れ、SOS団の部室に戻る。
「っしょ、と……!」
 二人は俺が部屋を出たときのままの格好様子で力なく硬い床に横たわっている。
 まずはハルヒから慎重にひざの下と首の後ろに腕を差し込んで抱きかかえ持ち上げ、コンピ研部室へと運んだ。そっと下半身を地面に下ろし、上体を起こした格好でタオルで適当に雨を拭いてやった後、毛布でくるみ、ゆっくりと寝かせる。朝比奈さんもそれに倣う。
「何か暖が取れるもの……」
 が無いのか、と視線をめぐらせてそれを見つけた。電機ストーブが二台部屋の隅にしまわれている。あの部長の事だから買ったのだろうとあたりをつけつつ感謝して、パソコン用に伸ばされている延長タップにささるコードを引っこ抜いて、ストーブのそれをさし込み、二人の真横に一台ずつ置く。
 壊れてしまったドアの前にパソコンごと机を移動させて、鍵の変わりにし、窓際に行ってカーテンを閉める。
 そこまでを本当に一息も付かぬうちにやって、蓄積されていた疲労があふれ出した。
「ずっ、ふぅ、すっ、ふっ、ふぅ、は、はぁ、はっ、は、ふぅ……」
 再び熱を取り戻した体を床に落ち着けて、肩で荒い呼吸をしながら、心臓が落ち着くのを待った。
「厄日だな、今日は……」
 からっからの咽喉でそう呟く。本当に肺炎になりそうだ。じんわりとしたストーブの温かみは、全部二人に向けている。
「――っ」
 そのままへたり込みそうになる軟弱な自分を叱咤して、もう一度立ち上がる。
 まだ足りないのだ。このままでは俺じゃなく、二人も酷い風邪かそれ以上をわずらってしまう。
 だから濡れた服を脱がせて、体を拭いて、体操服に着替えさせるのだ。もちろん俺も。
 ……気後れ? する。してる。悪く言えば意識の無い女の子の服をひん剥くのだ。あぁ、そうだとも。恥ずかしいさ。だがな、申し訳ないとは思わない。無理やり気絶しているところを覚醒させるなんて出来ないし、命を守るためなんだから。
 が、しかし。
「……」
 取り敢えずは自分からやった。雨と汗でぐちゃぐちゃの服を全部脱いで、このとき後ろを向いてしまったのは生理的本能であるからして他意はないのだと何かに弁明しつつタオルで体を拭き、体操服に着替えた。
 夏用だが贅沢はいえない。今は体が火照っているが、その熱が引けばとたん寒くなるのは分かってる。二枚しか毛布が無かったのは運命だとあきらめる。この際。上手く行かないのは此処のところの決まりだ。
 寝ている二人に近づく。
「……ごめん」
 すぅ、と息を吸い込み、それだけ囁いて、俺はストーブに手をかざしてしばし温めた後、朝比奈さんの毛布を捲った。
 ――濡れた制服が肢体にぴっちりと張り付いて、同年代の女性から良い意味で逸脱した輪郭とおうとつのラインを浮き彫りにしていた。盛り上がった二つの丘。うっすらと透けて見える下着の色が淡い桃色だと馬鹿な脳みそが認識したところで、両方の頬をひっぱ叩いた。
「アホか、俺」
 もしくは最低。ぶんと頭を振る。
 何も感じるな。早いこと済ませてハルヒにもしてやらないといけないんだ。
「すみません、朝比奈さん……」
 ちょっとの間だけ我慢してください、と上体を起こし、上の制服を脱がせ、たいのだが上手く行かない。だらんと垂れ下がる腕に引っかかって抜けないのだ。
 着せるときも同じ苦労をするのかと懸案しつつ、それでもテレビで見た老人介護の要領で何とか脱がせ、病的に白い肌をタオルでそっとぬぐう。ふと触れた肌はやはりぞっとするほど冷たくて、何があったのかと不安に思う。そして体操服の上をこれも苦労して着せた後、下も同じようにする。スカートはファスナーさえ見つければ、後は下げるだけなのでずいぶんと楽だった。
 使ったタオルで長い髪を纏めるようにしてくるみ、そのまま枕の替わりにして一丁あがり。
 再び毛布くにくるまれた幼い顔は、穏やかとはいかないがちゃんと呼吸もし、確かに生命の灯を感じさせていた。
「ふぅ」
 と、一息ついて、ハルヒに向かう。
「……」
 一日にも満たない時間離れていただけなのに、ずいぶんと久しぶりに出会ったような錯覚がした。
 痣がある口元が痛々しく、どうしてか心がきりきりと痛む。青白い顔と紫の唇に、本当にどうしてか泣きそうになる。
「昨日、何があったんだよ、いったい……」
 そんな事を言いたいのでは無かったのかもしれない。
「……」
 ではなんと言いたかったのかは、分からない。分からないから、口をつぐんだ。
 早くやってしまおう。聞きたいことは目を覚ましてからこんこんと聞いてやれば良い。
 毛布を捲る。現れた肢体は、記憶よりも華奢なような気がした。こいつ、こんなにも細かったか……? 心の中でそう呟きながら、そっと上体を起こして、ほんの少し慣れた手つきで上の制服を脱がせてやって――

「……なんだ、これ」

 ――絶句した。
 目を疑った。荒れた部室を見たときよりも、驚愕していた。体が震えるのが分かる。
 何度か瞬きをしてもう一度見たが、それは変わらなかった。
 ……ハルヒの体には、赤黒い痣がいくつもあった。
 殴られたものだと、直感的に悟る。それは口元のものにしてもそうだ。ちょうど握りこぶし大の大きさだった。白亜のように滑らかな白い白い肌に、不釣合いにいくつもの赤黒い華が咲いている。誰が? 何故? 何があった? ――許せない。と、乱雑に浮かんでは消える波のような思考と共に、俺は……不謹慎にも綺麗だとさえ思った。
「痛くないか、ハルヒ……? 大丈夫か……?」
 タオルでひとしきり優しくぬぐってやった後、恐る恐るその一つに指先を触れされる。
 ――冷たい。痛いに決まってる。見ただけでそんな事くらい分かるだろう。気遣う台詞が自然に零れ出る口を、不思議に思わない。いたわるように、いとおしむように、ゆっくりと俺は痣をなぞった。
「……ぁ」
 雨音といまだ衰えない雷鳴だけが轟く室内で、かすかにうめき声が響いた。
 俺のものじゃなかった。意味をなさない、小さな小さな呻きだったというのに、それは鈴のようによく響いて俺の耳朶を打った。
「……ハルヒ?」
 ハルヒの唇から漏れたうめきだった。
 囁いて問いかける。その名前を、呼んだ。
 呼応するかのようにゆっくりと開いていく瞼の下から現れ出たのは、濁った黒曜石。つぼみから開花する桜ののように、本当にゆっくりと開かれる。
「――ぁ、キョン……?」
 胡乱に茫然と彷徨う胡蝶のような瞳が、焦点を俺に合わせたとき、ハルヒは確かにそう呟いた。
 小さな小さな、髪の毛よりも細い残像のような声音は、雨音よりも大きく俺に聞こえてきた。
 刹那に見つめあう。
「そうだ、俺だ。分かるか?」
 手を握ってやる。しっかりと目を見つめて話す。そうしてやらないと駄目だと思った。
「……うん」
「大丈夫か?」
「……うん」
「怪我、痛むか?」
「……うん。でも」
「でも?」
 うん、うん、うん。
 と小さく首肯しつつ応えていたハルヒは、病人のような顔でふんわりと笑った。
 儚い儚い、月下美人よりもなお儚く咲く花のような笑顔だった。頬に散ったその花の朱色の小さな花弁は、生命の灯り。
「キョンが居てくれたら、全部、だいじょうぶ……。昨日は、おかしな事言って、ごめんなさい……」 
 そう言って、ハルヒは笑んだまま涙を流した。
 思わず息を呑む。こんなときにそんな事と、思う。まだ頭が上手く働いていないんだろう、と適当な考えで納得する。
「本当に、ごめんなさい……」
 壊れて胡乱なハルヒは、もう一度呟いた。
 ――あぁ、そうか。
 その顔を見て、俺は何かとても大事な事にようやく気が付いたような気持ちになった。
「……馬鹿」
「あ、ぅ、ご、ごめ、ごめん、ごめ、ごめんな、さ……あっ」
 馬鹿と言われて顔をくしゃくしゃにしたハルヒを、俺は、
「……キョン? 怒って、ない?」
「ねぇよ」
「本当に?」
「あぁ」
「……」
「……」
「ど、どうして私制服着てないの……?」
 今更そんなことで恥ずかしがっているハルヒを、俺は、近日の鬱憤とか陰鬱とか嫌な気持ちとかそういった負の感情を全部追い出して、
「ちょっと、静かにしてろ」
「……う、うん」
 ――ぎゅっと。
 まるで想い人を護るように、思い切り、けれど優しく抱きしめた。
 背中に力なく添えられる小さな手を、微塵も不快に感じない自分を、本当に不思議に思いながら。
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by kyon-haru | 2006-12-06 12:45