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うたた寝


 部室にはハルヒ、長門、朝比奈さんの三人が居た。
 古泉の姿は無い。多分バイトか何かだろう。どうでもいいんだけど。
 マッガーレとかいう幻聴は心の底から無視し、さてさて女性陣三人は、
 何時ものようにネットサーフィンに励み、
 給仕と奉仕活動に励み、
 読書に励んでいる――のではなく、
「「すぅ、すぅ」」
「……」
 三人ともが机にクッションを置いて居眠りをしているではないか。
 はてはて何故何故どうして? と至極当たり前な俺の疑問は、
『今日は休養日! 休むのも仕事のうちよ! 
 明日の探索に備えて団員は体調を万全にしなさい! それが今日の部活!』
 と跳ね馬のような文字で殴り書かれた書置きが解決してくれたわけだが、
 この休養という名前のお昼寝会には俺も参加しないといけないのだろうか。

 とりあえず茶を淹れる。席に座って、ずずずと一口。うむ。不味い。
 朝比奈さんが淹れてくれた茶はどうして同じ葉なのにあんなに美味いのだろうか。
 それともあれか。俺が茶葉に嫌われてるんだろうか。
 などという下らないことを考えつつ、三人の寝顔を眺めてみる。いや、おつなもんだね。
「――」
 まず朝比奈さん。
 あぁ。背中に羽根をつけたら天使になって天へ飛んでいってしまうのではないか。
 頬をぷにぷにと突っつきたい。
 もともと童顔な顔が、寝ることによってあどけなさを増し、可愛らしさは四割増し。
 薄く開いた小さな口から漏れる、桜色の吐息をジプロックか何かに詰めて……
「アホか」
 古泉のヘンタイがうつったのかもしれない。
 やだねやだね。と頭を左右に振って、次に長門に視線を移した。

「……もしかして」
 メチャクチャ貴重なんじゃないだろうか。
 長門の寝顔なんて初めて見たような気がする。
 いつもの表情で、目を閉じただけ――一見すれば、だが。
 俺は長門の寝顔にどこか安堵したような安らいだ印象を受けた。
 何だかんだでSOS団の皆のことを信頼してくれてるんだな、長門。
 寝姿ってのは無防備なものだ。
 長門のことだから何かあればすぐ目を覚ますだろうけど、ありがとな。

「さて、と」
 長門の耳を凝らしてさえ微かにしか聞こえない寝息に物騒な想像をしながら、
 俺は最後にハルヒを見る。

「ったく」
 案の定というか、何と言うか。
 ハルヒは口の端から涎を垂らしながら、寝言で
「キョン、ジュース買って来なさい、むにゃ……」
 なんてことを言ってやがる。それもどんでもなく幸せそうな顔をして。
 俺をパシリにする夢がそんなに楽しいのか。このっ、このっ。
「っ、ふにゃ」
 席を立ち、傍まで行って鼻を摘んでやる。
 ハルヒは眉を顰めるが、これくらいでは起きないだろう。
 指を離せば、ほらまたすぐに幸せそうな顔に逆戻り。
 単純なヤツだ。もう一度鼻を摘んで――やろう、という気にはならなかった。

「ん、うー……、なによ、キョン、の癖に……」
 あぁ……もう。なんだ。
 そんなに幸せそうな顔で、声で、俺の名前を呼ぶなっての。 
「あー」
 秋なのに暑いなぁ、顔が熱いなぁ。胸があついなぁ。
 なんてことを考えながら、俺は自分の上着をハルヒの肩にかけてやる。
 風邪引くなよ? 明日は土曜日なんだから。
 もし探索で二人のペアになれたなら、言おうと思ってることがあるんだ。
「……キスしたら起きるかな」
 ボソッと呟く。コイツに会ったばかりの事件を思い出して、何気なくだ。
 何気なくだし、皆寝てるから誰に聞かれたというわけではないの、だけど。
 あー。
 恥しさに耐えられなくなった俺は部室から出た。
 さて、本でも読みながら古泉が部室に入らないように見張りでもするかな。


おまけ

「キョン君、いったい誰に対してあ、あんなこと言ったんでしょうか……」
「そ、そんなの決まってるじゃない!」
「……誰に?」
「も、勿論あた「私で「わた」しよ!」す!」し……」
「……」
「……」
「……」
 かるーく世界の危機だったそうな。
by kyon-haru | 2006-11-06 05:28


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