「それじゃあキョンには振り向きざまに”大好き”って言ってもらいましょうか!」
夏合宿のとき有希がやってたみたいにね。
と、元気一杯なハルヒは高らかに罰ゲームを宣言した。
「……どうせ途中でやっぱ良いわ、って言うんだろ」
オチは分かってる。
そういうのは長門や朝比奈さんがやるから面白いのであって、俺がやったって面白くもなんともない。気持悪いだけだ。
やれやれ、と肩をすくめる俺を見て、ハルヒはアヒル口をする。
「二回も同じことしないわよ。ぶーたれてないでさっさとする! ほらほら!」
「罰ゲーム自体が二回目じゃねぇか」
「うっさい。文句ばっかり言ってると罰ゲームを三個に増やす罰にするわよ」
無茶苦茶言うな。
それに某ランプの精霊や神代の龍でもその願いは禁じ手なんだぞ……などと反論すれば、三個どころか五個十個と増やされそうだ。
しょうがない。
何が悲しくてこんなことしなけりゃならんのかさっぱり分らないが、さっさとクリアしてしまおう。
いや、俺がババ抜きで負けたのが悪いんだが。
「分ったよ。やれば良いんだろ」
古泉のニヤケ顔、長門のちょっぴり好奇心の浮かぶ顔、朝比奈さんの微笑み、ハルヒの睨みに押されて、俺はぶっきらぼうに答えて椅子から立ちあがり後ろを向く。
「ふぅ」
一度大きく息を吸い、吐く。
心を落ち着け決心をつける。
そして、振り向きざまに感情を込めて大好きと――
「……っ!」
――言えん。言えない。
振り向いてアイツの顔が視界に入った瞬間、口が全く動かなくなってしまった。
慌てて「すまん、やり直す」と言って後ろを向きなおす。
……やばい。しゃれにならないくらい恥しいぞ、これ。
胸が高鳴る。顔が熱い。くそ、何で熱くなるんだ。たかが罰ゲームじゃないか。
「ちょっと、真面目にやりなさいよ!」
ハルヒの怒声が飛ぶ。
うっせぇ。人の気も知らないで。
こちとら今誰かさんの所為で柄にもなくふつふつと湧く羞恥心に四苦八苦してるんだ。
「少し待てって」
「何でよ」
「何でもだ」
あぁ、もう。お前の声を聞くだけで駄目なんだ。しゃべりかけるな。
「じれったいわねぇ。十個に増やすわよ。それが嫌だったらさっさとやる!
ほら、さん、にい、いち――」
楽しそうな声で手拍子と共にカウントダウンをとるハルヒ。
「ほらほら、ぜぇーろ――」
……あぁぁ、もう!
ええい、ままよ! こうなったらヤケクソだ! 勢いでばばっと片付けちまえ!
行け、キョン。男見せろ。ボ、ボンバー!
そうして、俺は――
「……お前が、好きだ」
――見事に台詞を間違えた。
しかも完全に振り向けてねぇし、目線はあらぬ方向だし、ちゃんと言えなくてぼそっと呟くだけだったし。
い、いや、だって仕方ないだろ。まともに見れるか言えるか!
いいい、いや、これはお遊びだろ。罰ゲームじゃないか。どうしたんだ、俺。なんでこんなに恥しがってって……ああああ、もうワケがわからねぇっ!
「……」
「……」
「……」
「……」
揃いも揃って皆沈黙してるし!
畜生、なんだよ。そんなにおかしかったのか。おかしかったんだろうなぁ。オマケに気持悪かったんだろうなぁ、そうだろうなぁ、ハハハ。古泉あたりがやれば男でもサマになったんだろうなぁ、いやぁ、はっはっは。
「……はぁ」
一頻りテンパった俺は、俯いて盛大な溜息と共に混乱を吐き出した。
忸怩たる想いとこれから暫くこのネタでからかわれるのだろうなぁ、という暗澹たる暗い未来がやたらリアルな幻影となって俺の脳裏を駆け巡る。泣いていいか、俺。
「……」
「……」
「……」
「……」
ていうかいい加減誰かリアクションしてくれよ。
どうしたんだよ、ハルヒ。笑いとばしてくれよ。長門、ユニークはどうした? 古泉、苦笑いは? 朝比奈さん、慰めて下さい。
ゆっくりと顔を上げる。
「――え?」
するとそこには、何故か、俺以上に顔を赤くして固まっている朝比奈さんと、持っていた文庫本を地面に落す長門と、鼻血を出して倒れている古泉と、
「あ、あ、ああ、あたしもっ!」
意味不明な叫びをあげる、完熟トマトのようなハルヒの姿が――って、何、これ?
続いてたまるかっ!