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●<5月16日

・拍手返信
 五段変速マッガーレ!鶴にゃんとミクルにゃんがいいな
>つまりネコネコな鶴屋さんとみくるということですね。そういうありきたりだけど偏った嗜好が大好きだぜフヒヒ……。
 ちなみに鶴屋さんのエッチなお話はパロさんところに行けばぬっぷり読むことができるよ! ぬっぷり!
 卑猥な擬音なので二回言いました。

・おでんは世界を救う
 暇つぶしに書いてから気がついたけど、昔日記連載だか拍手連載してた朝倉さんSSがあったと思うんだ。
 それの続きを書けば良かった。とりあえず過去記事見てくる。多分書いていたはずだ。

●<ゴルバチョフ!

 足音で二次大戦のモールス信号を刻みながら下校している道中にそれはあった。
 ピンクチラシ満載の電柱の影を被るぼろっちいダンボール。
「白昼夢か……?」
 それを覗き込む。腿をつねりながら思わずそう呟いてしまった。痛い。
 夢だったら良かったのになーとか思いつつ、幾度か瞬きをしてから再度覗き込む。
 ダンボールの中には、 
「おでん?」
 ――底の深い更に盛られたほかほか湯気をあげるおでん。
 からしまで丁寧に添えられていてちょっと美味そうだなじゃなくて、
 おでんの傍には花柄が四隅にプリントされた乙女ちっくなメモ用紙があり、そこには、
「捨ておでんです。名前はりょうこ。かわいがってあげてください」
 そんな――俺のような常識ある通常男子人類には理解不能なメッセージ。
「……えーと」
 頭痛を耐えながら、こめかみをもみほぐす。
 大きく深呼吸を一回。すーはー。……うし、落ち着いた。
 そんな落ち着いた俺がこのおでんとメッセージに対する処置を考えた結果は、
「無視だ、無視」
 当たり前である。
 こんな怪しそうな物に構っていられるワケがない。
 そもそも捨ておでんって何だよ。なんでおでんに名前がついてるんだよ。食べ物を可愛がるってなんだよ。
 その昔自販機の取り出し口に自分が買った覚えがないジュースの缶があり、それを見つけ「あれ? ラッキー! もーらい!」とかいう感じで能天気にそれを飲んだ人が毒殺されたという事件がある。
 俺はこのおでんにそれと同じ匂いを感じ取った。
 だから無視だ。そう決意して足早に立ち去ろう――とするのだが、
「……毒、か」
 それはそれで浮浪者の人とか野良猫野良犬カラスの類が飢餓に耐えかねてぱくっといった場合、どえらく危険ということに聡明な俺はすぐに気がついてしまうわけで。
「こんなやさしい俺が恨めしいぜちくしょう」
 やれやれしょうがねー、とダンボールからおでんとメモを拾い上げる。
 そして、だ。さてさてこれはごみ捨て場に放置するワケもいかないから、川原で火にでもかけこの世から抹消してしまうのが一番確実な方法かね、とか考えながら歩きだしたそのときだった。
「毒なんかはいってないもん!」
「――はえ?」
 空耳かと思い、最近つかれてんのかと頭を振って再び深呼吸してみるが、
「毒なんかはいってないもん! おいしいからそれはもうおいしいから! ていうか燃やさないで!」
「……」
 何故だろう。
 周囲にはこんな声を出しそうな女性はおろか、人っ子一人居ない。
 インターネットも人並みにたしなむが、脳内彼女を持っているワケでもない。
 じゃあ何故、女の声が聞こえるんだろう。
「ね、ねねね? 食べてみて、お願い。ていうかね、食べなさいよ。刺すわよ」
 ――腕の中のおでんから。
 とてもゆったりとした動作で、俺は首を傾けた。はっきりしっかりとそれを見つめる。
「ねーねーねー! 無視しないで! 食べて食べて、わたしを食べてってたらあ!」
「……あぁ、うん」
「え!? うん、ってことは食べてくれるってことなのね! さぁさぁ、ほかほかなうちに召し上がれ!」
 ――認めよう。認めようじゃないか。
 発声器官なんぞあってたまるかな代物から音声が発せられていることを。
 認めはした。認めたが、だがしかし理解はイヤだ。
 理解できないからといってそれを悪だ恐怖だと決め付けず、ただ探究し、真実を見極めるのが男子だと昔の偉いおっさんが言っていたような気がするが、眼前のコレを理解してしまったら俺はとても大切なものを失っちまうのは確実である。
 だから、だからだから俺は――!
「きめえよ! きめえよすごく!」
「え? あ、わ、なに、ちゃ、いやー!」
 しゃべるおでんなんぞ気持ち悪いから捨ててしまおう!
 そういう結論をミリ数秒で弾き出し、皿をフリスビーのように放り投げる体勢に入る……ッ!
「消え去れ! この世から!」
「ひど! ひどい! ひどくないそれ! じゃなくて止めて! お願いだから止めてー!」
 そして俺は勢いをつけるため、加速のための助走に入り――、
「あ」
「あらら?」
 犬のウンコさんそれも下痢を踏みそうになり、トップスピード半歩手前の状態から強引に足の着地地点をずらした所為で、
「アッー!」
 ぐらり、と視界が急激に捩れた時にはもう手遅れだった。
 地面に衝突しそうになる体を庇うためにには両腕で受身を取る必要がある。
 体育の柔道がこんなところで役に立つとはな! 勿論おでんなんぞその途中で手から離し、数瞬後には襲い掛かるだろう強烈な衝撃に想像を馳せながら受身の姿勢を取った。
「い! っつう……」
 取ったのだが、所詮帰宅部なモヤシマン俺が完璧な受身なんぞ出来るわけもない。
 それでも手のひらやらの擦過傷と引き換えに何とか頭部は守りきり、ほっと一息ついた――その日その時歴史が動いた。動いてしまったのだちくしょう。
「きゃーきゃー! おーちるー! 助けてー!」
 弁明させてもらうなら、その瞬間の俺の頭の中ではしゃべるおでんの存在など吹き飛んでいたのだ。
 そんなことより犬の下痢ウンコさんを踏まないで済んだ事と、頭部を負傷しなかったことに安堵していて――だからだろうね、いや、だからなんです。
 女の悲鳴だ! と悲しい男の性がマイクロ数秒で反射的に体を動かしてしまい、その悲鳴の源へ顔を向けて。
「今たすけおごぶぉ!?」
 そんな顔の口内に、何かとてもあっついほかほかじゅるじゅるなモンがクリーンヒットした。
 そしてワケも分からずそれを噛んでしまって、とたん口の中に溢れる旨みに「この大根すげえ美味いです山岡さん……ッ!」とか何とか、アホすぎる思考が感想を漏らしたときには、
 もうすでに俺の平穏なる高校生活は終わりを迎えていたらしいと、後悔のブリザードである。

「あ、あ、いやぁ。ぐちゅぐちゅいってるのぉ、だめだめ、そんな激しくしないでぇ!
 はう、う、だめ、だめぇ おいしいって言葉にだまされちゃだめよ、わたし……だって、あ、こんな獣みたいな食べ方……でもく、悔しいけど嬉しいのぉ!」

 場違いすぎる女の嬌声が脳に直接響いて、
 あぁ、あながちAV女優さんも芝居ばっかりじゃないんだなー
 だなんて死んだほうがいいですかね俺? なことを思ったその時には、生唾をごっくんする要領でその妙ちくりんなしゃべるおでんを飲み込んでしまっていた。
「うわああああああー! 死んだー! 俺! 死んだー!」
 そして我に返る。叫びながら指をつっこんでげぇげぇするのだが、悲しいことに脳みそには「このおでんは美味です」とインプットされていて、一向に胃液が逆流してくる気配が無い。
 吐き出せない。吐き出せないイコール俺死んだ。つまり、俺は恋とか仕事とか色んな人生の楽しいこと素敵なことを知らないまま、こんなふざけた事で死んだ。
「うぐっ」
 自然に涙が零れた。お母さんごめんなさい、とか、辞世の句を残すべきか、とか早すぎる己の死をまともみ見つめることなんぞ出来るはずもなくて。
「来世じゃおでんなんか絶対食わないぞ……えぐっ」
 三途の川を渡るための六文銭は現代でいう何円なんだろうか、六円だったら言いのにな――。
 だなんて、輪廻転生後の人生の決意とまずこの先直面する問題を懸案しつつ、俺は意識を手放した。

 ………………
 …………
 ……
 
「――天国にしちゃ、見慣れた光景だな」
 意識が戻る。覚醒してまず最初に捉えたのは、ひどく見覚えのある天井だった。
 ていうか。
「俺の部屋じゃないか」
 そして、俺はどうしてか自分のベッドに制服のまま横たわっていた。
 まだ思考が靄がかかったようにぼんやりとしている事を自覚しつつ考えてみる。
「天国が俺の部屋なのか、単に俺は死んでなくてどうやってか家に帰ったのか」
 後者だったら良いな。むしろ後者であれよ、常識的に。
 意識を手放す直前の出来事を思い返し、もしそうでなかったら日本中のおでんというおでんを一つずつ焼却処分してやる――割と真面目にその為の計画を練ろうとしたところで、
「毒なんか入ってない、って言ってたっけか」
 つまるところなんだ。本当に毒が入ってない唯のおでんだったのか。
 いやいや待て。語弊があった。
「毒が入ってないけど、人語を操る奇妙奇天烈なおでんだったのか」
 いやいやいやいやいや待て。そもそもそれに拘る必要はない。
「夢だったのか」
 うむ。これが一番しっくりくる結論だ。
 そもそも腿をつねって痛かったからという理由だけで現実だと決め付けたのが浅はかだったのだ。
 記憶は無いが、きっと俺はえらく学校で疲れる出来事があって、帰宅したら服を着替える力もなくベッドに倒れこみ悪夢を見たのだ。
 うむうむ。そうに違いない。そうであれ。そうだろ。なぁ、そうだろ?
「ううん。夢じゃないよ」
 ひざ立ちで俺のベッドに上半身を乗せた……清潔そうな前髪と立派な眉毛をしたちょっと美人な見知らぬ女の子は、月見草のように儚く笑って俺の希望をへし折って、
「お前の名前は……もしかして、」
「うん。涼しい子どもと書いて涼子。りょうこちゃんです」
 貴方がおいしく激しく食べてくれたおでんの精霊です、と。
 もう一度意識を手放すには十二分な台詞をのたもうたので、遠慮なく俺は現実におさらばを決めた。 
by kyon-haru | 2008-05-17 01:22


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